「あなたのアンドリュー・スコットはどこから?」

 ぽっぽアドベントが始まると、師走が来たな……長いようで短かった1年も、もう終わるね。今年はどんな1年だった? 良い年だった? それほどでもなかったかな。来年はもっと良い年になるといいね! と、まあ。そんな感じになりますが、ちょっと待って。ぽっぽアドベントって今年で2年目じゃない???

  

 それほどに、去年のぽっぽアドベントが楽しかったのです。ハマっているものは違えど、オタクが好きなものへと注ぐ熱量というのは、同じだなあって思えた。読みながら、そうだよね。ってうなずいたり、そんなこともあるんだ! って、新しい視点が開けたり。

 このクっソ忙しい師走。だけど、ちょっとだけ、足を止めて深呼吸して、オタクという大雑把なくくりの広義的な意味での概念上の友人たちの想いというものを、読む。受け止め、共感する。なんて贅沢な時間なんだろう。

 毎年、企画してくださる「ぽっぽ」こと「はとちゃん」ありがとうございます。ぽっぽの行動力とその人徳。本当に素晴しいと思うし、その存在に救われている人、いると思います。

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 ここを読まれている方は、きっと私のフォロワーさんだったり、フォロワーさんのフォロワーさんだったり。そんな、ゆるーいつながりの方が多いのではないかと思います。でも、はじめましての方もいらっしゃると思います。映画やドラマを見たり、お芝居に行ったり小説や漫画を読んだりするのが好きで、趣味でちょっとだけ小話を書いたりもします。まあ、ただのゆるいオタクです。

 

 今年のテーマである「変わった/変わらなかった」こと。

 

 未曾有のパンデミックが起こり、大なり小なり、何かが変わったのではないかなと思います。価値観だったり、世界の見え方だったり、生活だったり。
 個人的なことでの「変わった/変わらなかった」ことといえば、謎の皮膚疾患に襲われて(まあ、ストレスと更年期かなって思います)皮膚科通いをしてヒート○ックと決別したことや、薬の副作用で吐き気があったので、白湯を飲むようになったのをきっかけに、鉄瓶を購入して、鉄瓶とともに暮らしていることなどが、変わったこと。

 変わらなかったことといえば、去年の暮れにはツイッターのアカウントを消しちゃおうかなと思っていたのに、こうして今も呑気につぶやいていること。などですが、そんな中で「変わった/変わらなかった」今年一番のことは「アンドリュー・スコット」との関わりの変化のことでした。

 簡単に言えば、ナショナルシアター・ライブの「プレゼント・ラフター」で「アンドリュー・スコット」を再発見した。という個人的なことを、つらつらと書いて行きます。ある意味では、今まで知っていた人に特別な感情を抱くようになった経緯、です。

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 あなたのお時間をすこしだけ頂き、お付き合いくだされば嬉しいです。

 

 気になっていた、というのは経験上、とても厄介なのです。

 

「あなたのアンドリュー・スコットはどこから?」
 といえば、大抵の方はBBCのシャーロックだと思います。私にしても、アンドリュー・スコットという俳優を、見つけたのはBBCのシャーロックのジム・モリアーティ、だと思います。イギリスの俳優さん「あるある」でいうところの、今思えば「バンド・オブ・ブラザーズ」に出てたよね! とか、そういう過去の出会いはありました。

 でも、私を含め多くの方が、彼を見つけたのはジム・モリアーティ。たぶん、きっと。当時、観ていて良い意味で「なんだこれは……」とは思ったし、その後もちょいちょいと色々な映画などで目にする度に、気になっていました。

 気になっていた、というのは経験上、とても厄介なのです。
 そこには、好きになる要素、萌えに育つ核、種子のようなものが存在していることが多い。なにかきっかけさえあれば、その核や種子はあっという間に萌芽して、大きく育つわけです。ジャックと豆の木ではありませんが、一晩で天に届くほど、成長する。それが萌え。

 そういった種子や核を持つ、あらゆる存在が世界にはあって、きっかけを待っている。実際に芽生えるのは少なく、大きく育つのはもっと少ない。だからこそ、その種子やきっかけを大切にしてゆきたい。そう思います。

 実際、アンスコさん(親しみを込めて略します)という俳優には、いろんなドラマや映画で遭遇するのです。容貌に特徴があって、印象に残りやすいという特質もあるのかもしれません。

 繊細で素朴な空気も出せるし、暴力的な狂気に振りきれた瞬間の演技というものは、一瞬で心を掴んでしまう。でも、彼だけに特化したわけではなく、プロの俳優さんというのは、さらっとそういうことをやってくる。

 それでも、演技の質というようなものが、肌に合う合わない。受け取りやすい受け取りにくい。というのはあると思います。

 こうして、再発見してみれば、好きなタイプの俳優さんだなあと思います。「シェイプ・オブ・ウォーター」や「マン・オブ・スチィール」での悪役で知られている「マイケル・シャノン」という俳優が好きなのですが、大雑把に分けるとアンスコさんも、このタイプになると思うんですよ。注・主観です。

 好きなタイプなのに、それも今まで見てきたのに。どうして、自覚なかったの? 発見できなかったの? チルチルミチルの青い鳥のような感じ。身近に居すぎてわからなかった????

 

 そして、また「なんだこれは……」

 

 それでも、予兆はありました。それは、去年の年末にドラマ版の「フリーバッグ」のホット・プリーストなアンスコさんを目の当たりにして「なんだこれは……」って、なったこと。

 ご覧になった方はわかると思うんですが、すごく魅力的なんですよ。セクシーだし切ない。ものすごい吸引力がある。

 けれど、それはきっかけにはならなかった。そのままだったら、可能性の種子や核を持った「気になる俳優さん」から変化しなかった。

 けれど、今年の全世界的な「ステイホーム」期間中に「sea wall」に、出会ってしまった。

 この期間、あらゆる媒体が無料でアーカイブを解放してくれ、お家にいながら世界各国のあらゆるエンターティメントが見られたし、沢山見させていただきました。辛い生活の中で唯一の行幸だったかもしれない。

 その中で、もっとも心に残った五作品の中に入るのが「sea wall」でした。

「sea wall」つまり「防波堤」というタイトルのアンスコさん一人芝居も、無料で配信されていまして、フォロワーさんたちがすごく推しているので、見てみたのでした。

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 そして、また「なんだこれは……」と、なったのでした。

 カメラに向かってアンスコさんが独白しているだけなのに、その言葉、声の抑揚、表情。すこしだけ視線を落とす、唇を震わせる。髪をかきあげる。声を詰まらせて、沈黙。カメラ越しなのに、録画なのに、そこに居るというリアルな感覚が伝わってくる。動作で空気が動くのも、吐息も、匂いも(実際どんな匂いなのかはわかんないけど)その存在のすべてが伝わる。「なんだこれは……」ってなって、あっという間に、感情が連れさらわれて、気付いたら泣いていた。

 その時に、こういう俳優の力。訴えかけることで他人に共感を誘い、感情を巻き込む。こういう力を悪い方向へと行使されたら、やばいんだろうなとか、こういう力を持つ俳優さんたちが正しい方向へと力を使っていてくれてよかったなとか、も考えました。が!

 こういうことを考える時点で、惹かれているのを認めたくなくて、必死に抗っていたんだなあと、今になれば分かるのが、面白いです。

 そんな感じで、それでも、まだ私の中では、特別な俳優さんにはならなかった。無意識に近づいちゃダメ……って避けてた部分もあると思います。萌えというのは、魂を救済してくれるんですけど、生活がおろそかになるし、部屋は荒れるので(ちゃんと両立できる人もいるのはわかってますが)できれば、これ以上、特別な対象を増やしたくない……とは思ってました。楽しいけど、すごーく大変なのです。

 

 ナショナル・シアター・ライブの「プレゼント・ラフター」

 

 そんな中、ナショナル・シアター・ライブの「プレゼント・ラフター」というお芝居がありました。ノエル・カワードというマルチな才能を持った(役者であり、戯曲も書くし、作曲もする)才人が上梓したコメディ芝居。ノエル・カワードの書くものはゴージャスで楽しいので元々好きだったし、TLに流れてきた現地で見た人の評判がものすごく良かったので、見に行きたいと思っていたのです。まあ、基本的にナショナル・シアター・ライブは全種類、観たい。

 たまたま、初日に有休を取っていたので、見ました。期待はしてましたが、それはお芝居が面白いだろうという期待で、まさかアンスコさんという俳優が、自分の中で「特別」になるだろうだなんて、1ミクロンも期待してなかった。

 内容に関して、ナショナル・シアター・ライブのサイトから引用しますね。

 スター俳優ギャリー・エッセンダインが海外ツアーに出かける準備をしていたところ、個性的な面々の訪問を受け、彼の生活はハチャメチャに――。現代の名声・欲望・孤独を見事に投影した作品に仕上がっている。主演は、ドラマ「SHERLOCK」のジム・モリアーティ役など映像分野でもおなじみのアンドリュー・スコット

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 個人的なことですが(まあ、これずっと個人的な話しかしてないですが)最近疲れていて、ざっくり言うところの重たい話を見るのがつらい。それはいろんな種類の現実がつらいから。そこか目を背けちゃいけないし、意見は言っていこうとは思うんですが、正直、フィクションの世界では、ぱあっとした華やかな感じ? のものを見たいなって思っていたところに、これですよ。ご覧になった方しかわからない言い方で、すみません。

 スター俳優の日常を、面白おかしく魅せる。華やかだし、セリフの応酬のウィットに富んだやりとりの軽妙さとか、衣装も美術も素敵だし、何と言ってもアンスコさんの演技がすごかった。

 ぐいぐい引き寄せられる。お芝居の中のセリフにもあるんですが、彼は太陽のようで、その周りを人々が回ってる。けれど、そういったところに彼が疲弊していて孤独を感じているのも、伝わってくる。

 基本的に俳優さんはそれができていて当たり前だし、それができる俳優さんはたくさんいる。

 でも、人ってみんな違うので、向き不向きがある。こんなにもたくさんの俳優さんがいる中で、自分向きの俳優さんに出会う。というのは、それこそ奇跡だと思う。

 その言葉、声の抑揚、表情。感情を爆発させたり、困惑したり、笑ったり。すこしだけ視線を落とす、唇を震わせる。髪をかきあげる。カメラ越しなのに、録画なのに、そこに居るというリアルな感覚が伝わってくる。動作で空気が動くのも、吐息も、匂いも(実際どんな匂いなのかはわかんないけど)その存在のすべてが伝わる。圧倒的にチャーミングで、放っておけない。彼のためなら手助けしたい。そういうオーラが出てる。失礼ながら、こんなにも華やかなチャーミングさを爆発させられる俳優さんだとは、思っていなかった。んですね。「なんだこれは……」ってなって、あっという間に、感情が連れさらわれて。

 ああ、捕まった。もう、逃げられない。観念するしかない。

 私は、アンスコさんの演技がすごく好き。

 って、思いました。

 

 感情の乱高下のスタート

 

 よく、恋に「落ちる」って言いますが、それは感情の落差というのを表しているのだと思います。感情がフラットな凪いだ状態から、激しく乱高下する。それは落ちたり上がったりする。恋に落ちるというのは感情が揺れること。

 心が攫われる瞬間っていうのは、自分では予測不可能ですし、どの瞬間に心を掴まれたのかは、判然としないことが多い。気づいた時には、取り返しのつかないことになっていて、捕まっちゃったなって思う。私は割と鈍い方で、捕まった瞬間はあまりよく覚えていない、数日してから、あれ? なんだか変だぞ? ってなることが多い。

 脚本を勉強している時によく言われたのは、心を揺さぶるには、落差が大切。ということ。登場人物の感情を高いところから落としたり、低いところから跳ねあげろ。その心の揺れる幅が大きいほど、見ている人は惹きつけられる。言わば、ジェットコースターや吊り橋効果ってことを利用しろということなんですが、真理をついてると思うんですよね。

 「アンドリュー・スコット」という俳優は、モリアーティとか007のスペクターでの、癖のある狂気に振り切れた悪役というイメージが強い。私もそうしたタイプキャストに、囚われていなかったとは言えない。もっとも「フリーバッグ」での、誠実で不器用でそれでいてキュートなアンスコさんも、「sea wall」での繊細なアンスコさんも、自分の中に積み上がっていた。けれど、まだ落差が足らなかったのかもしれない。

 「プレゼント・ラフター」の人気俳優ギャリー・エッセンダインでの、よく動きよく笑い、嘆き絶望し、舞台の上を縦横無尽に動きながら、エネルギッシュに抑揚を自在に操り、魅力的に演じるその「アンドリュー・スコット」の姿に、自分の中の既成概念が崩れた。そして、その落差に感情を掴まれた。感情の乱高下のスタートです。

 もしかしたら、舞台での彼にもっと早く触れていたら、もっと早くにアンスコさんという俳優が自分のなかでの「特別」に「変わった」のかもしれません。

 そこからの私は、「プレゼント・ラフター」に通いつつ、戯曲を三種類取り寄せて読み比べたり、他の人のギャリーと見比べたり、アンスコさんの過去作品を掘り起こしたり、どうしてもっと早く……アンスコさんに……そうしたら、Old Vicの配信お芝居「Three Kings」も観れたのに……。と思いつつも、楽しく過ごしています。

 結果として、Old Vicの配信お芝居「Three Kings」はリバイバルがありまして、無事に見ることができました! 本当に良かった。

 以上、幸福にも「アンドリュー・スコット」との関わりが「変化したこと」でした。

 

 「変わってない」こと。

 

 最後に、これまた個人的な話になりますが。私の守備範囲はover40でして、基本的に40歳より上の年齢の俳優さんが大好き、なんですね。
 そこで、ふと思って、年齢を調べたらアンスコさんは1976年の10月生まれで、日本で「プレゼント・ラフター」をやっていた時44歳のお誕生日を迎えた頃でした。

 つまり、over40ですね。40歳の壁を超えた辺りのお仕事から、私の心に響くようになってきたってことなの……かな!

 そんなわけで「変わってない」こと。でもありました。

 その法則に当てはめると、今活躍している若くて魅力的で演技も上手な俳優さんたちが、いずれ40歳の壁を超えてくるわけですよね。来年はどんなover40俳優との出会いがあるのかと思うと、今からとても楽しみです。

 

 最後に……

 

 この状況が落ち着いて、ウェストエンドも復活して渡英できるようになり、アンスコさんのお芝居を生で観れるようになるといいなって思う、年の瀬の「ぽっぽアドベント」でございました。
 まとまりのない文章を、最後まで読んでくださって、本当にありがとうございまいた。

 

 明日は……

 

1・藤見よいこさん 

adventar.org
2・たぬきさん 

adventar.org
3・ふじおさん 

adventar.org

 となっております。楽しみです!!

 これを書いていたり、お芝居に通っていたりしたので読めてないアドベント参加作品があるので、これからもりもり読みたいです。通っていたお芝居 ↓ すごくお勧め!!!

pdx-c.com

 では、一足早いですが、よい年の瀬を! 来年は素晴らしい年になりますように!